旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
(握った方が…いいのよね?)


そうよ、私達夫婦になったんだし…と躊躇(ためら)いつつ、恐る恐る指先を伸ばす。

すると、それを握った彼がぐっと自分の方へ引き寄せ、急に縮まった距離に胸が弾んだ私は、目を見開いて相手の顔を見上げた。


「此処、幽霊屋敷とかじゃないから」


まるで心理を読み取ったかの様な彼は意地悪そうに微笑むと歩き始め、病室も隔離しなければならない患者の為に作られてあっただけ、と種明かしする。



「曽祖父は内科医だったんだ。だから、手術とかに縁はない」


怖がらなくてもいい…と安心させる彼は、その後も手を離さず、握ったままで私を奥の和室へと連れて行った。




「この部屋は祖父母の寝室だったんだ」


襖を開け放した彼は、座敷をまっすぐ横切ると縁側へ続くガラス戸に向かった。


「それで此処から見える庭が大のお気に入りで…」


説明しながら縁側の掃き出し窓を解放し、身を避けて視界を広げる。


「祖父母は当時、この庭のことを『月詠みの庭』と称してた。
二人とも短歌を作るのが趣味で、秋になると庭で月を眺めるのが習慣だったから」


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