旦那サマとは打算結婚のはずでしたが。
「これならやっぱり、焦って式なんてしなくても良かった」


どうしてもっとじっくり相手のことを知ろうとしなかったんだろう。

自分の思う庭づくりが出来るという甘い話に乗って、打算的に結婚を選んでしまったお陰で、毎日こんな放っとかれてる。



「皆藤さん、今夜もまたあの香りを身に付けて帰ってくるのかな」


毎日会う仕事の相手は女性かな…と呟けば、なんだか妙な気分がして、それを嗅ぎたくない気持ちもあり、早目にお風呂に入ってしまおうと思い浴室へ向かった。


お風呂上がりは奥の和室へ立ち寄り、何気なく縁側に近付いてガラリと窓を開け放つと__。


「…あっ、ここ本当に月がよく見える」


今夜は三日月だったのか…と斜め上に広がる空を見つめ、あの月を彼の祖父母は毎晩一緒に眺めたのかな…と回想した。


「こんな広い家にたった一人で住むのって、本当に勇気も度胸もいるよね」


彼のお祖母さんが一人で住むのは嫌だと言った理由も分かるような気がして、黙って空を見上げる。


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