涙のち、銃声


冷静に聞いていたはずなのに、

一瞬の静寂の後、
一気に頭の中に広がった。


お母ちゃん、お父ちゃん、ゴローちゃん、
従業員のみんな。


ドンチャン騒ぎが、保育園の帰り道が、

一緒にやった学校の宿題が、
みんなで食べたご飯が。



「・・・・・・・・・・・。」


出ないと思っていた涙が、
一気に溢れ出していた。


目、呼吸、感情。

全て落ち着くまで、
タク坊はずっと静かに見守ってくれた。



「・・・・アズサちゃん・・・。
どうかお幸せになってください。」


「・・・・うん・・・・・。」


「これで肩の荷が下りました。
じゃあ俺は・・ムコウジマに帰ります。」




・・・・・・・・・・・・・!?




「・・待って・・・待ってタク坊!!」


「・・・・・・・。」


「今・・何て言ったの・・・?
“肩の荷が下りた”・・・?」


「・・・・・・・・・・・・・。」


「・・・・・・・・・・。」




淡い記憶が蘇っていく中、ゴローちゃんの顔を見上げる風景がフラッシュバックした。


引っ越しのあの日。
桐谷から堀部に苗字が変わったあの日。


ゴローちゃんが私に言った時と同じ言葉。


ゴローちゃんが私に見せた顔と同じ表情。


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