次期院長の強引なとろ甘求婚


* * *


「いいですか? ちゃんと向こう、向いててくださいね!」

「はいはい、わかってるよ」


 バスルームの扉の前から、先に中に入った樹さんに念を押す。

 くすくすと笑いながら「厳戒態勢だな」なんて呟きが聞こえてきて、そろりと中へ足を踏み入れた。

 余計なことを考える暇もなく愛されてしまうと、自分の状態を気にしているのは始めのわずかな時間だけだった。

 ふたりして恍惚の世界に堕ちていく。

 抱き合う樹さんの逞しい体も、気付くとしっとり汗ばんでいた。


「まだですよ、今入りますので」

「でもさ、これ意味ある? もう隅々まで見ちゃったあとなのに」

「そういう問題じゃないんです! 駄目ですからね!」

「信用ないな、ちゃんと約束は守るから」


 樹さんが向こうを向いているのを目視で確認しながら、体を洗ってさっとバスタブに足を入れる。

 先に入れておいてもらったバラが、湯の温かさで綺麗に花を咲かせていた。

 ちゃぷんと水面が揺れて、そそくさと肩までお湯に浸かる。

 顔だけお湯の上に出している状態になると、目の前に色とりどりのバラがゆらゆらと流れていった。

< 100 / 103 >

この作品をシェア

pagetop