次期院長の強引なとろ甘求婚
* * *
「いいですか? ちゃんと向こう、向いててくださいね!」
「はいはい、わかってるよ」
バスルームの扉の前から、先に中に入った樹さんに念を押す。
くすくすと笑いながら「厳戒態勢だな」なんて呟きが聞こえてきて、そろりと中へ足を踏み入れた。
余計なことを考える暇もなく愛されてしまうと、自分の状態を気にしているのは始めのわずかな時間だけだった。
ふたりして恍惚の世界に堕ちていく。
抱き合う樹さんの逞しい体も、気付くとしっとり汗ばんでいた。
「まだですよ、今入りますので」
「でもさ、これ意味ある? もう隅々まで見ちゃったあとなのに」
「そういう問題じゃないんです! 駄目ですからね!」
「信用ないな、ちゃんと約束は守るから」
樹さんが向こうを向いているのを目視で確認しながら、体を洗ってさっとバスタブに足を入れる。
先に入れておいてもらったバラが、湯の温かさで綺麗に花を咲かせていた。
ちゃぷんと水面が揺れて、そそくさと肩までお湯に浸かる。
顔だけお湯の上に出している状態になると、目の前に色とりどりのバラがゆらゆらと流れていった。