次期院長の強引なとろ甘求婚


「未久、少し休んだら?」


 開店から二時間が経った午前十一時。

 店先で届いた鉢植えの花たちを並べ替えていると、背後から母親に声をかけられた。


「うん、大丈夫。ここの整理しちゃわないと」

「いいわよ、代わるから。ちょっと休憩しなさい」

「いいって、大丈夫――」

「大丈夫大丈夫って、耳はどうなのよ。治ってないんでしょう?」


 軽く受け流そうとした私を黙らせる、母親の鋭い質問。

 つい口ごもると、私が両手で持っていた鉢を奪うようにし「ほらみなさい」と言った。

 一週間ほど前から突然、右耳の聞こえが悪くなったのだ。

 表現するのなら、ぼわーんとした聞こえで、何が膜でも張られている感じ。耳に水が入った時の感じに近いものがある。

 全く聞こえないというわけではないけれど、すっきり聞こえないことが不快でならない。

 気になって近くの耳鼻科にかかると、聴力検査までした結果、精神的なものだろうと診断された。

 耳の病気でないことにホッとはしたものの、精神的なもので耳の聞こえが悪くなっていることには驚いた。

 同時に、「心療内科を紹介しますね」と紹介状を書かれたことには内心ショックを受けてしまった。

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