次期院長の強引なとろ甘求婚


「お店のことで、心配ばかりかけてごめんね。今朝のことだって……」


 母親の顔に暗い影が落ちる。

 例の嫌がらせの一件だ。

 きっとショックを受けると思い、両親に気づかれる前に片付けてしまおうと急いだけれど、出てきた母親に気づかれ、目撃した状況を追及されてしまった。


「心配しなくていいわ。もうすぐ、悩まなくていい日がくるんだから、ね?」


 努めて明るく声を出す母親に、今度は私の顔が翳る。

 悩まなくていい日……それは、うちのお店が閉店をするという日なのだ。


「耳鼻科の先生に紹介状、書いてもらったんでしょ?」

「うん……でも、心療内科って」


 ちょっと耳の聞こえが悪いくらいで、心療内科にかかるなんて、私的には大袈裟だと思う。

 それに、心療内科という分野にかかるのは、なんとなくハードルが高い。

 メンタルだけは強めだと思ってきた私が、心療内科って……。


「精神的なものだからって診断受けたんだから、ちゃんと行ってきなさい。すぐそこの三角病院じゃない」

「そうだけど……」

「もっと聞こえなくなったら困るでしょ? 午後、お店はいいから行ってきなさいよ」


 もっともなことをずばり言われ、これ以上行かないと拒否の姿勢は見せられなかった。

 確かに、これ以上聞こえが悪くなっても鬱陶しい。

 放っておいて、左耳まで同じようになったら厄介だ。

 仕方ないと諦め、小さなため息をひとつついた。

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