次期院長の強引なとろ甘求婚
待合の椅子にかけ、私はひとりそわそわと落ち着かない気分で周囲を見回す。
他の患者さんをじろじろ見るのも失礼だとハッとし、膝の上で組んだ手に視線を落ち着かせた。
お昼を取り、店のことは気にしなくていいという母親に見送られ、私はひとり、近くの【三角記念病院】にやって来ていた。
小さな頃から大きな病気などと無縁だった私は、こういう総合病院にかかる機会は全くなく、これが初めてのこと。
ちょっとした風邪などは、近所の町医者で診てもらっていたからだ。
受付で紹介状を書いてもらったことを話すと、心療内科の外来の場所を案内された。
二階へと上がり、眼科や皮膚科などの総合受付の広い待合いを横目に、廊下を突き進む。
他の外来とは別の場所に、心療内科の待合いは用意されていた。
観葉植物が飾られ、待合いのベンチもどこか患者に配慮されゆったりと設置されているように思える。
「三十七番の方」
心療内科の受付から、看護師と思われる人が番号を読み上げる。
渡された番号札に目を落とすと、その番号を自分が持っていて、思わず「はい!」と声を上げて返事をしていた。
プライバシー保護のためらしく、名前ではなく番号で患者を呼び出すと受付に書いてあった。
「どうぞ、診察室にお入りください」
立ち上がった私に、受付けの看護師が声をかける。
ぺこりと頭を下げ、いそいそと診察室の扉を開いた。
「お願いします……」
診察室の扉を半分まで開けたところで、部屋の中に見えた顔にドアを開ける手が止まってしまった。