次期院長の強引なとろ甘求婚
お店に訪れ、彼女と言葉を交わすことをいつの間にか日々の楽しみにしていた。
あの花が咲いたような可愛らしい笑顔を守りたい。
それには、彼女のお店の危機をなんとしてでも救わないとならないのだ。
「樹、お昼いける?」
ぼんやりとしていると、いきなり現れた母親に背後から声をかけられた。
「なに、難しい顔して。怖いんだけど」
振り向いて顔を見せた途端、そんな言葉がかけられる。
余計なお世話だ……。
「まぁいいわ。患者さん、午前は終わりみたいよ。どう? 久しぶりに一緒にランチ」
表でチェックしてきたのか、午前の診察はこれで終わりらしい。
大型連休の中日の診察。午後の予約も普段の半分ほどだった。
それにしても、昼食を母親が誘ってくるなんて珍しい。
「沙帆が来てるのよ。で、一緒にランチに行こうって話になって」
と思ったら、妹の沙帆が来ているという事情が絡んでいた。
「それなら行く」と返事する。
「何よ、沙帆の名前出したら即答ね~」
席を立って白衣を脱いだ俺の背中を、母親は嫌味と共にどつく。
沙帆は、五歳年下の実の妹。
ふたり兄妹で年も離れているからか、子どもの頃から自他ともに認める溺愛をしてきた唯一無二の可愛い妹だ。