次期院長の強引なとろ甘求婚
昔から両親が多忙だったこともあり、沙帆は兄の俺をいつも頼りにしてくれていた。
だから沙帆が寂しくないように自然と寄り添ってきたし、両親の代わりに守ってやらなくてはならないという使命感がいつもあった。
他の家庭よりも兄妹の繋がりや絆は強いに違いない。
そんな沙帆も、今や結婚して人妻という身になった。
俺の可愛い妹を見事ゲットしたのは、なんの因縁なのか大学時代の同期で歳も同じの心臓血管外科医。
総合病院の次期院長という肩書きは、妹を嫁に出しても申し分はなかった。
多忙な両親を見てきて『医者とは結婚しない!』と言っていた沙帆だったけれど、両親が持って帰った見合いがこの時に限り何故か上手くいった。
「お兄ちゃん、久しぶり!」
席を取ると先に病院近くの店に入っていた沙帆は、母親と俺の姿を見て手を振り合図した。
結婚しても沙帆は変わらずお兄ちゃん子でいてくれているけれど、以前と比べて食事に行けることもぐんと減った。
結婚をしてしまえば、兄だからといって気軽に誘いづらくもなるものだ。
「珍しいな、うちの病院に顔を出すなんて」
「うん、怜士さんに頼まれごとされて、お父さんに用があったの」
「そうか。でも、変わらずみたいでなにより」
「お兄ちゃんもね」
それから、他愛ない会話を楽しみながら三人で食事をした。
食事を終えて食後の紅茶が運ばれてくる前、母親のスマートフォンに連絡が入り、急遽先に病院に戻ると席を立った。
ふたりきりになると、沙帆は「そうだ」と何かを思い出したように口を開いた。