次期院長の強引なとろ甘求婚
「ごめんね、お待たせして」
「いえ、大丈夫です。おとなりの本屋で時間潰したりしてたので……あ、お仕事お疲れ様です」
病院を出て三十分もしないうち、三角先生は仕事を終え外に出てきてくれた。
最後の予約の患者さんは定期の方で時間がかからないと聞いていたけれど、想像していたよりもずっと早かった。
「じゃあ、行こうか。少し車で移動するけど、大丈夫?」
「あ、は、はい。大丈夫です!」
威勢よく返事をしてしまった私を、三角先生は「ははっ」と爽やかに笑う。
「そんなに緊張しないで。どこかに連れ去ったりしないし」
冗談ぽくそんなことを言って和ませてくれているけれど、この状態は私にとって緊張しないでいられるものではない。
お店のお客様で、密かに素敵だな、なんて思っていた相手。
まさかその人とこうして個人的に会うなんてこと、想像すらしたことがなかった。
でも、そのまさかが今現実に起こっているわけで……。
病院の裏手にある駐車場は関係者専用のもので、そこに入った三角先生は真っ白な高級車に近づき、助手席のドアを開ける。
「どうぞ」
「ありがとうございます。お邪魔します……」
「未久さん、面白いな。家に上がるみたいに車乗るんだね」
「えっ?!」
三角先生はまたクスッと笑って「閉めるよ」とドアを閉めていく。
だって、こんないい車に乗った経験が今までない。
座り心地も、目の前に広がる車内の光景も、何もかもが初めてで落ち着いていられるはずもなかった。