次期院長の強引なとろ甘求婚
車が発進しても、借りてきた猫状態で静かに車外の景色に視線を送る。
他愛ない話題で三角先生が和やかな空気を作ってくれているものの、私は終始緊張で話の内容が上手く頭に入ってこなかった。
やがて車を駐車して到着したのは、庭園付きの隠れ家的フレンチレストランだった。
初めての場所で、駐車場から三角先生の後ろをついて歩きながらもきょろきょろとしてしまう。
こういうお店は、友達の結婚式だとか、そういう特別な時にしか訪れたことがない。
白い外壁に黒い重厚なドアが待つ建物に近づいていくと、先にドアが開き、中から黒服の男性が姿を現した。
「三角様、お待ちしておりました」
「すみません、急な予約で」
「とんでもございません。どうぞ」
どうやら初めての来店ではないスタッフと三角先生の会話。
エントランスから落ち着いたクラシックな雰囲気の店内で、ハッとして自分の今日の装いを見下ろした。
胸元にレースをあしらったシンプルな黒い薄手ニットトップスに、麻素材でグリーンのミディアムロングフレアスカート。
普段はこの格好に足下をキャンバススニーカーにしたりもするけれど、今日はたまたまミュールを履いているからカジュアル感は抑えられてはいると思う。
でも、こういうお店に入ってもいい格好なの……?
席へと案内されながら席についている食事客を窺うと、心配していたようなカチカチの正装の人はほとんどいない。
とりあえずホッと安堵し、案内された窓際の席で黒服のスタッフに椅子を引いてもらった。