次期院長の強引なとろ甘求婚
こういう反応をされたのは新鮮で、思わず目を見張る。
今まで、食事後にお財布を出してそわそわするような子とは出会ったことがない。
知り合った女性はみんな、『ご馳走様でした』と微笑むだけだった。
むしろそれが普通だと思っていたし、なんの疑問も感じていなかったけど……。
店に入る時間はまだ明るかった空も、すっかり暗く夜の空を迎えている。
駐車場へと向かいながら背後をちらりと振り向くと、未久さんは後ろを控え目についてきている。
足を止めると一緒に立ち止まり、驚いたように顔を上げた。
目が合って、彼女の背へとそっと腕を回してみる。
引き寄せてエスコートするように歩き始めると、未久さんは「あ、あの」と戸惑ったような声を出した。
「ん?」
「あ……いえ」
そわそわしたような空気を発しているのが、ものすごく可愛らしい。
嫌がられている様子は感じ取れなかったから、たぶん恥ずかしいという感情なのだと思う。
「未久さん、次の週末は予定あるかな?」
「次の週末、ですか……特に、なかったと思います」
「あ、でも、お店は休みではないよね?」
「はい……でも、何かあれば休みはもらえるので」
八ヶ岳に所有している別荘に、母親が管理を依頼して作っているバラ園を持っている。
ちょうど今の時期、バラが盛んに花をつけている見頃で、毎年、母親は休暇を取って訪れているのだ。
しかし今年は、見頃の時期の週末に予定が続き、出かけられないと嘆いていた。
そんなことを思い出し、思い立ったように彼女の予定を聞いていた。