次期院長の強引なとろ甘求婚
そして――約束の週末はあっという間に訪れた。
「未久、お店のことはいいから、もう出かけるんでしょ?」
支度を終えて表のシャッターの鍵を手にしたところで、リビングを出ようとした私に母親が声をかけてきた。
「あー、うん。でも、まだ時間じゃないし、シャッター開けて少し開店準備手伝うくらいは大丈夫」
「いいわよ、自分の顔とか髪のチェックに費やしなさい!」
「えっ、今日の恰好、何か変?」
八ヶ岳のバラ園に花を観に行こうと予告されていたので、服装はやや高原に合うような動きやすいコーディネートにした。
落ち着いた濃い色デニムパンツに、白いロゴTシャツ。羽織りにチェックのシャツを着たところで普段の仕事着と大して変わらないものがあるとハッとしたけれど、山に行くのにワンピースやスカートを着て行く気にはなれず、その代わりに普段はしないヘアアレンジに時間をかけた。
胸上までのセミロングの髪を緩く巻いて、トップにねじりをきかせたハーフアップのアレンジだ。
普段ほとんどアレンジなんかしないくせに、なかなかの出来栄えで結構気に入っている。
「ううん、可愛いわよ。その髪型とか、女子力高めでいい感じ」
「ほんと? それなら良かった。お店、開けてるね」