次期院長の強引なとろ甘求婚


 デートって、正直どんな恰好で行ったらいいのかよくわからない。

 学生を終えて働くようになってから、家業を手伝っている環境にいたせいか、誰かとお付き合いするご縁がこれまでなかった。

 そのせいか、恋愛という事柄にはすっかりご無沙汰。

 やっぱり、一応ふたりで初めて出かけるデートという日に、デニムとかはカジュアルすぎるかな……?

 でも、TPOって言葉を考えると、行き先的に間違ってはないよね。

 気合入りすぎてるのも、あとで絶対恥ずかしくなりそうだし、あんまり考えすぎないで、これできっと大丈夫。

 そんなことをうだうだ考えながら表に出ていって、お店の前で足が固まったように動かなくなった。


「うそ……」


 下ろされたシャッターに、目を疑うような悪質ないたずらがされていたのだ。

 白いシャッターに、赤いスプレーペイントででかでかと書かれた『閉店しろ!』の文字。

 ショックのあまり、呆然と立ち尽くす。

 少し前にも、生卵をシャッターに叩き付けられるということがあった。

 あの時は掃除をして、特に警察にも届け出なかったけど、これはさすがに酷すぎる……。

 商店街を行き来する人の目が、遠慮がちにシャッターへと注がれていく。

 誰がこんなことを……そう思っていた時、「未久さん」と背後から声をかけられた。

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