次期院長の強引なとろ甘求婚
「すみませんでした……」
一時はどうなることかと頭が真っ白になったけれど、ちょうど迎えに来てくれた三角先生の冷静な対応で事は静かに片付けられた。
私ひとりだったら、あんなに落ち着いて迅速に全てをこなせなかったはずだ。
不安な気持ちから安心させてくれたし、何よりとても心強かった。
「どうして未久さんが謝るの?」
予定通り八ヶ岳へと向かう車内で、三角先生はハンドルを握りながら横顔に微笑を浮かべる。
「迎えに来ていただいて早々、嫌な気分にさせてしまって……」
「それは、未久さんの方でしょ。あんな悪質ないたずら、許されないことだ」
三角先生の綺麗な顔から笑みが消える。
フロントガラスの先に見える高速道路のどこまでも続く道へと視線を泳がせ、まだ目の裏に焼き付いて離れない光景を思い返した。
雑に赤字で書かれた『閉店しろ!』の文字。
生卵の時も思ったけれど、今まで私の知る限りではあんな悪質ないたずらをお店にされたことはない。
「やった人間の検討とかはつかないの?」
「はい……それが、全くなくて……もしかして知らぬ間に、お客様の恨みでも買ってしまったのかなって」
「それはないよ。未久さんもご両親も、人の恨みを買うような人たちじゃない」