次期院長の強引なとろ甘求婚
「そんな……やっぱり、あの駅前のお店のせいなの? あのチェーン店がきたからうちのお客様も減って――」
「未久……人様のことを悪く言ってはだめだ。全ての原因がそこにあるわけじゃない」
「でも!」
次第に興奮してくる私の様子に、父親はどっしりと落ち着いた様子で静かに首を横に振る。
その姿に、私は続きの文句を言えなくなった。
「早く決断することも、家族を守っていくためだと思っているんだ」
父親の言葉に、黙って話を見守っていた母親が微笑む。
「開店当初からお世話になってるスガノ農園さんがね、今度は引っ込んで栽培の方もやってみないかって、言ってくれているのよ。うちの状況を話したら、力になりたいって言ってくれてね」
「え……じゃあ、お店を閉めて、農家の仕事を始めるっていうの?」
私の確認に、母親は小さく頷く。
父親と顔を見合わせ、ふたりは弱弱しく笑い合った。
「これ以上深追いしなければ、家族を食わせていけるくらいの貯えはあるんだ。だから、あとは地方に引っ込んで、静かに花を作っていこうかと思う」
告げられた苦渋の決断は、私の目の前を真っ黒に染め上げる。
両親だって、好きで店じまいをするという選択に至ったわけではない。
だからこそ、私はお店を畳むことも、両親が新たな人生を歩もうと考えていることも、何一つ納得がいかなかった。