次期院長の強引なとろ甘求婚


「安西さんち、行ってきまーす」


 いつも注文を受ける仏花を持って、ひとり歩いてお店をあとにする。

 古くからの常連さんの中には、決まった期間に定期的にお花を届けているお宅がある。

 今から伺う安西さんのお宅は、奥様からの注文で二週間に一度、仏花をお宅まで配達に行っている。

 ご主人の仏壇に供えるお花を、うちでいつも注文してくださるのだ。


「こんにちは、『フラワーショップ彩花』です」


 インターフォンを押して声をかけると、奥様はすぐに玄関先まで出てきてくれる。


「いつもありがとう。さあ、どうぞ」

「失礼します」


 引き戸式の玄関ドアを入ると、奥様はいつもお釣りなしに用意したお代を渡してくださる。


「綺麗なアイリスね……このはっきりとした紫色」


 奥様は花束を受け取ると、ひとつひとつの花をじっと見つめながら朗らかに微笑んだ。


「未久ちゃん、急いでないなら上がっていって。美味しい羊羹をいただいたの。お茶に付き合っていかない?」

「いいんですか? ありがとうございます」


 安西さんの奥様は、ご主人が亡くなられてからこの大きなお屋敷ににひとりで暮らしている。

 盆と年末年始にひとり立ちしたお子さんたちが帰ってくるそうだが、それ以外はひとりきりだ。

 そういう事情を知っているから、両親からは安西さんから誘いを受けたらお話相手になってきなさいとも言われている。

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