次期院長の強引なとろ甘求婚
夕方近くには八ヶ岳を出発し、東京へと向かうことになった。
特に大きな渋滞に巻き込まれることもなく、自宅近くへ送り届けてもらったのは十九時前のことだった。
うちがある商店街のそばのパーキングへと入り、三角先生は車を駐車する。
「ありがとうございました。運転、長くて疲れましたよね?」
「ううん、全然。たくさん話せて楽しかったよ。こちらこそ、ありがとうね」
運転席から腕を伸ばして、三角先生は私の髪にそっと触れる。
編み込んでねじったアレンジをした部分にじっと視線が注がれた。
「髪型、いつもの自然な感じも好きだけど、今日のは凝ってて可愛かったよ」
朝、時間をかけてちょっと頑張った今日のヘアアレンジ。
ちゃんと目に留めてもらっていたことに驚く。
普段と違うって、気付いてもらってたんだ……なんか、嬉しいな……。
「服装も、普段と変わり映えしなかったので、髪くらいはって思って……ありがとうございます」
「普段も十分可愛いけどね」
「いえ、そんなことは……。三角先生って褒めすぎで、こっちが照れます」
髪に触れていた手がこめかみに下りてきて、頬を撫でる。
つられるように顔を向けると、薄暗くなりつつある車内で三角先生にじっと見つめられた。
「そろそろ〝三角先生〟って呼ぶの、卒業してみない?」