次期院長の強引なとろ甘求婚
「え……」
「なんか、名前で呼んでもらえたら、もっと近づけるかなって思って」
そう言った三角先生は大きな手の平で私の頬を覆い、その親指で撫でるように触れてくる。
まただんだんと恥ずかしさが増してきて、誤魔化すように「では……」と口を開いた。
「樹、さん……で、いいですか?」
名前を口にしてみると、予想通り鼓動が跳ねるのを感じる。
初めて病院で会ったあの日。
診察を受けながら、白衣の胸元のネームプレートをじっと見つめた。
三角樹、っていうんだ……。
長く顔見知りではあったものの、名前を知る機会はそれまでなかった。
だからあの日、何度も頭の中で知った名前をリピートしていた。
「ちゃんと、知っててくれたんだ。良かった」
ほっとした表情を見せた樹さんの温かい手が、肩へと下り二の腕に触れる。そのまま手先まで下りてくると、指を掴んで手を握られた。
「本当は、まだ帰したくないんだけど」
「えっ……」
握った手から視線を上げて、樹さんは意味深に微笑んで私を見つめる。
あからさまに動揺を露わにした私の様子を目に、樹さんはふっと表情を和らげ笑ってみせた。