次期院長の強引なとろ甘求婚
「でも、今日のところは送っていく。今はまだ、ご両親を心配させないようにしないといけないからね」
「は、はい……」
「早速娘を持ち帰ったかなんて、絶対印象悪いし」
そんなことを言って樹さんは苦笑する。
ホッとしたのと同時、密かに残念だと思う気持ちが芽生えた。
私……まだ一緒にいたいと思ってるんだ……。
運転席を降りていく樹さんを横目に、シートベルトを外す。
もう少し、一緒にいたい。
そう口にしたら、彼はどんな顔をするだろう……?
助手席へと回ってくる姿をガラス越しに見ながら、速まる鼓動をひとり感じる。
言ってしまおうか。やっぱり、そんなこと言えない。
そう葛藤しているうち、助手席のドアが開かれた。
樹さんが自然な動作で手を差し伸べる。
「ありがとう、ございます」
その手に触れて車を降り立った私は、やっぱり今ある気持ちを口にすることはできなかった。