次期院長の強引なとろ甘求婚
「わぁ、美味しそうですね!」
「未久ちゃんには大きく切ってきたわ」
「えー、嬉しい!」
暖かい日差しが降り注ぐ縁側に腰掛けて、艶々の羊羹をいただく。
振り返った居間から見える仏間には、届けたばかりのお花が早速供えられていた。
「今日はいい陽気ね……」
私のとなりに掛け、湯飲みを口にした奥様は眩しい空を仰ぎ見る。
庭を囲むようにつるを伸ばしたモッコウバラが見頃で、心地のいい芳香が鼻孔をくすぐった。
「モッコウバラも満開で、いい香りですね。私、黄色よりこの白いモッコウバラの方が好きなんです。香りも楽しめるから」
「これね、お宅のお店で苗を買って育てたのよ」
「えっ……そうだったんですか?」
「もう、植えて十年近くなるかしら……未久ちゃんがまだ、中学生くらいの頃よねぇ。買ってきて、主人が植えてくれたのよ」
生き生きとたくさんの花をつけ、立派に成長したモッコウバラの木。
昔、安西さんのご主人がうちの店で苗を購入し、ここに植えたと聞いて胸に熱いものが広がる。
春が来るたびこうして花を咲かせ、奥様はそのたびにご主人を想うのだろう。
そう思うと、やっぱりこれからも誰かのために花を届ける店を続けたいと、強く思った。