次期院長の強引なとろ甘求婚
恐る恐る顔を上げると、すぐそばに私たち以外の女性の姿があった。
「あ、あの、これは……」
突如現れた女性を目にした〝サホ〟さんは、あからさまに動揺を露わにし、今の今まで私に怒鳴り散らしていた人とは思えない狼狽を見せる。
「あなた、何科の看護師? ああ……循環器内科ね」
現れた女性は〝サホ〟さんに詰め寄ると、何かに納得したような言葉を呟く。
「こういうことしたってこと、全部兄に話しますから」
そう言われた〝サホ〟さんは一瞬にして顔色を悪くし、「すみませんでした!」と甲高い声で謝りその場を慌てて立ち去っていった。
通用口のドアがガシャンと閉まる音がすると、この場を治めてくれた女性は私へと駆け寄り「大丈夫ですか?」と立ち上がらせてくれる。
目の前で顔を合わせて、物凄く可愛らしい顔立ちに同性のくせにどきりとしてしまった。
「ありがとう、ございます……」
「ああ……お花が……」
私を立ち上がらせると、すかさず彼女は地面に落ちた花束を拾い上げてくれる。
両手に抱えると、花の様子を窺うように長い睫毛を伏せた。
地面には、衝撃で取れたアジサイの花びらが散って落ちていた。