次期院長の強引なとろ甘求婚
「未久ちゃん、今日は少し元気がないように見えるけど……どうかしたの?」
「えっ……」
つい暗い顔になってしまったことにハッとして、慌てて笑顔を作る。
それでも奥様は私の心情を見透かすように、じっと横から視線を送り続けた。
昨晩の話の中で、常連のお客様には店じまいすることを知らせていくと両親が言っていた。
小首を傾げて私の話を待つ奥様に、体ごと真っ直ぐ向き合う。
切り出す一言目が重く、深くゆっくり息をついた。
「安西さん……うちのお店、もうじき店じまいすることになりそうなんです」
私から言葉に、奥様の目が一瞬驚いたように大きくなった。
揺れる瞳で、じっと私の顔を見つめる。
突然の告白を受け、言葉が見つからないのだろう。
「お店を……畳まれるの? どうして、また……」
「私は、できればそうしたくないです。でも……両親の意向で……」
それから、しばらくの間沈黙が落ちた。
両手に包み込むようにして持った湯飲みの中の綺麗な緑色を、私はただ黙って見つめていた。
「お父さんのお花……これからどこで買えばいいのかしら」
そうぽつりと言った奥様の言葉に、私は「すみません」と言うことしかできなかった。
ぐずぐずと、胸に重く苦しい何とも言えない痛みを感じていた。