次期院長の強引なとろ甘求婚
「私……沙帆さんが妹さんとは知らず、ずっと勘違いしていました」
エレベーターに乗り込むと、未久はぽつりとそんなことを口にする。
小さく笑い「名乗っていただいた時に、どうして気付かなかったんだろ」と言った。
彼女の背に添えた手を自分へと引き寄せ、覗き込むようにして顔を見つめる。
「でも……妹さんが沙帆さんだと知って、全部繋がったというか……」
「……どういうこと?」
「あの、八ヶ岳に連れて行ってもらった日、樹さんが電話に出て〝サホ〟って口にした時から、誰だろうって……誰か特別な相手なんだろうって思ったら、もやもやしちゃって」
照れながらも思いを伝えてくれる姿が愛おしい。
でも、まさかそんなことでもやもやしていたなんて知ると、どうしてそんな気遣いもできなかったのだとあの日の自分を恨んだ。
「ごめん……もっと、不安にさせないようにしなくちゃいけなかったね。今のは妹だって、あの時言えばよかった」
「そんなことないです! 樹さんにとっては沙帆さんから電話がかかってくることなんて日常的な、ごくごく普通のことなんだし……私が、気にしすぎで勝手に落ち込んだだけなんで、樹さんは何も悪くないです」
エレベーターが目的階へと到着し、彼女の肩を抱いて部屋へと向かっていく。
交わしていた会話は途切れ、未久の緊張が伝わってくるのを感じながら、カードキーで辿り着いた部屋の扉を開いた。