ビタースウィートメモリー
コスメブラック新宿店を出た時には、16時を少し過ぎていた。
会社に真っ直ぐ戻っても良かったが、今日はもう特に急がなければいけない仕事はない。
明日の取引先への手土産をまだ買っていなかったため、悠莉は少し寄り道をしてから帰ることにした。
道中で、タカノフルーツパーラーの看板が目につく。
タカノフルーツのジャムやお菓子は万人受けするので、何品か適当に見繕えばいいだろう。
今週は手土産が必要なのはあと一件だけだ。
来週の分は、また別の日にでも買いに行けばいい。
紙袋を携えて、学校終わりの学生で混みはじめた山手線に乗り込めば、懐かしいシーブリーズの匂いがした。
ゴールデンウィーク明けは夏の始まりを予感させる日があり、今日も日中はかなり暑かったらしい。
会社まであと二駅というタイミングで、ポケットの中のスマホが小刻みに震えた。
表示画面にはLINEのアイコンと、大地からのメッセージが映っている。
〝たまった領収書あるんじゃない?そろそろ出せ〟
そういえば、経理に顔を出すと言ってからもう三日経っていた。
〝あと、今夜も付き合って〟
昨日の一件の疲れがまだ取れていないが、二件目があるらしい。
歳をとると疲労からの回復が遅いな、などと見当違いなことを考えながら、悠莉はOKとだけ書いてあるスタンプを送った。