ビタースウィートメモリー
それを聞くなり、大地は拭いたばかりのテーブルに突っ伏した。
「言葉がストレート過ぎ」
何が琴線に触れたのかはわからないが、彼は耳を赤くして低く呻いた。
やがてきちんと身を起こし、悠莉の真正面できっちり90度に腰を折った。
「俺からもお願いします。彼女になってください」
形式ばっているが甘い言葉が、耳から心臓に、そして脳に浸透していく。
一番欲しかった言葉が与えられた喜びを噛みしめながら、悠莉ははいと答えた。
酒の追加はせず、頼んだ料理を平らげると、二人は甲州屋を出た。
ウキウキとした足取りで店を出た大地が、悠莉に向かって手を差し出す。
その意味がわからず、今日は割り勘だったのかと悠莉が財布を出せば、大地は肩を落とした。
「違うのか」
不思議そうに目を丸くする悠莉に、ぶすっとした顔で大地がつっこむ。
「どこの世界に付き合った初日に割り勘を要求する男がいるよ!今日ぐらいは俺が全額持つわ」
「じゃ、その手は?」
「手を繋ぎたいって意思表示だよばーか!それくらい察しろ!」
照れ隠しなのか眦をつり上げてキレる大地をはいはいとあしらい、悠莉は自分の右手を大地の左手に絡ませ、ちゃっかり恋人繋ぎにする。
「これで良いだろ」
自分から誘っておきながら、いざ手が触れるとびくりと体が跳ねた大地を、悠莉は笑えなかった。
本当なら狼狽する大地をからかい、ニヤニヤ笑ってやりたいところだが、自分の心臓の異常に早い動きのせいでそんな余裕が無い。
「ちょっと寄り道していきたいんだけど、良い?」
そう尋ねる大地に頷くと、彼は駅とは真逆の方向に歩きだした。
大地の住むマンションがある住宅街を通りすぎ、ラブホテルが立ち並ぶエリアが近づいてくる。
まさかいきなり抱こうとしているのかと警戒した悠莉だが、大地はホテル街を突っ切って行った。
体目的ではないらしく、ますます彼の真意がわからない。
甲州屋から歩きはじめて20分以上が経過した。
「着いた。ここを見せたかったんだ」
大地が連れてきたのは、なんの変哲もない児童公園だった。