ビタースウィートメモリー
街灯がそこかしこにあるため、目をこらしてよく見れば、公園の遊具のデザインや色使いがとても洒落ていることに気づく。
真っ白な大きいブランコ、パステルブルーの象の滑り台、シーソーはローズピンクとペールピンクのバイカラーだ。
「えらい小洒落た公園だな」
「ここ、有名なデザイナーが手掛けた公園らしいぞ。ちょっと前まではインスタ映えするって有名で、カメラを構えたやつがうじゃうじゃいた」
なるほど、と納得はするが、一応ここは児童公園である。
子供の遊び場に、カメラ中毒の大人が出入りするのはいかがなものか。
大地に手を引かれ、遊具の後ろに回ると、甘く濃厚な匂いが初夏の生温い空気に溶け込み、悠莉の肺を満たした。
頭がクラクラするような濃い匂いのもとは、花壇で圧倒的な存在感を放つ花、たくさんの薔薇だった。
大人二人分の歩幅しかない狭い歩道の先に、闇夜でも色がはっきりとわかる深紅の薔薇がふんだんに咲いているアーチがあった。
赤と緑のコントラストが見事なアーチは、白亜のガゼボに繋がっている。
「綺麗だ……」
ため息と共に思わず出た悠莉の呟きに、大地は目を細めて笑った。
「昨日散歩している時に見つけたんだ。青木と……悠莉と来たいって思った」
まるで電流がいきなり流れ込んできたかのようだった。
初めて名前で呼ばれた衝動に、勢い良く心臓が跳ねる。
それに呼応して、全身の血管が自己主張をはじめた。
特に顔は酷く熱が集まり、まだ夜は涼しいはずの季節なのに肌がじんわりと熱を持つ。
大地に捕らわれた右手も汗をかいていて、笑われたりからかわれたりしないか不安に思った悠莉だが、彼は気にした様子もない。
「この辺は足元悪いから気をつけて」
薔薇のアーチをくぐる時、大地はさも当然のように悠莉をエスコートした。
友達だった時とは違う細やかな気遣いに、落ち着きそうだった心臓が再び暴れる。
「確かに、なんだかこの辺だけ街灯が無いな」
女性として扱われていることが気恥ずかしくて、ついどうでも良い話題にすり替えてしまう。
すぐになくなると思った中身の薄い悠莉の誤魔化しは、意外にも話題を膨らませた。
「俺も最初は疑問だった。でも、ガゼボに入ればなんで街灯が無いのかわかるぞ」