ビタースウィートメモリー
経理部には課長の奥山と大地の他に男性社員はおらず、あとは女性社員である。
入社四年目、中堅として地位が固まってきた大地は、女性遍歴こそ派手だが、仕事は正確でとにかく早い。
それでいて俳優もかくやという容貌であるため、大地を巡り争う女性は、経理部だけではなく、総務部や広報にもいる。
付き合うスパンが短いということは、次は自分が彼女になれるのかもしれないーーーそういった浅い考えから、大地にアプローチする女性は少なくない。
悠莉は、大地とは長い付き合いの友人であると公表してきたため、また女性らしさをまったく感じさせない出で立ちであるため、だいたいの女性社員からはライバルにカウントされていなかった。
しかしそれでも、彼と距離の近い悠莉を妬ましく思う女性は一定数いる。
経理部の女性社員は、全員とまではいかないが、何人かは悠莉のことを嫌っていた。
それがわかっているから、悠莉は確実に大地がいる時間帯にしか経理部に行かないのだ。
「失礼します。領収書出しに来ました」
何個か並んでいるデスクの真ん中にいた大地に軽く会釈し、悠莉はポケットから領収書を出した。
あと三枚は、ハンドバッグの内ポケットである。
「相変わらず管理の仕方雑だな。ファイルかなんかに入れとけっていつも言ってるだろ。シワになってんじゃん」
「あー、すまん。つい癖で」
ぐしゃぐしゃになった領収書のシワを伸ばして差し出せば、呆れたような顔で大地は受け取った。
「よし、全部経費で落ちるものだ。ご苦労」
「おう」
確認を見届けたら、今日の仕事は終わりだ。
定時まであと20分。
その後の片付け諸々の時間に5分ほどかかるとすれば、大地を待つ時間はあと30分ほどであろう。
社内で一番Wi-Fiが混雑しない展望ラウンジの一角を陣取り、悠莉は大地に居場所をLINEで伝えた後、久しぶりにタブレットを開いた。