ビタースウィートメモリー
会議が終わるのが予想よりも早く、明日の外回りの準備も終わっていたため、悠莉は美咲と食堂で待ち合わせた。
今日はタイムカードを押すのがいつもより30分ほど早い。
しかし17時の定時ぴったりに退勤を勧められる総務部の美咲のほうが、今日も早く着いていた。
オフホワイトのニットアンサンブルに、パステルイエローのレースのタイトスカート、アクセサリーはパールのイヤリングと、そこそこ気合いが入っている。
「ごめん、お待たせ」
赤いフレームの眼鏡をかけて本を読んでいたが、悠莉の声に顔をあげた。
口元が無防備に空いているところがなんだか子供みたいで、同性の悠莉ですら庇護欲をそそられる。
「私も今着いたばっかりだから大丈夫。それより悠莉、今日もパンツ?」
不満げに口を尖らせる仕草ですら可愛い。
小動物のような雰囲気をほんの少しだけ羨ましく思うも、自分がそういった雰囲気を持たざる者である以上は鑑賞に徹しようと、改めて決意した。
「あたしがパンツ以外履いてきたことあった?」
「いつもたまにはスカート履きなよって言ってるのに」
「スカートより断然パンツ派なんで」
背が高いことがコンプレックスで、とかそういうのではない。
これに関しては本当に、パンツが好きすぎるだけなのである。
ちなみに今日の服装は、サックスブルーのYシャツとカーディガンに白のパンツだ。
「あ、それより美咲、高橋さん家に行く前に手土産買わないと」
「そうだね。何がいいかな?」
今日のホームパーティのメンバー全員と面識があるわけではないが、だいたいは知り合いである。
「うーん、参加者の好みの傾向としては酒より飯だな。だから飲み会じゃなくてホームパーティなんだろうし」
主催者の高橋もその友人も、酒に弱いわけではないが食べるのを優先する人達である。
それを考えたら、せっかく酒を用意してくれた高橋には悪いが、今夜はあまり飲めないだろう。
「じゃあ、お酒に合うものよりデザートのほうがいいかな?」
「うんうん。プリンとかゼリーは?暑くなってきてるし」
「それなら最近出来たケーキ屋さんでプリンが美味しいとこ知ってるから、そこで買ってこう」
眼鏡を外し、ルージュを塗り直す美咲を待つ間、悠莉はLINEを確認していた。
いつもなら気にしないが、昨日の今日である。
今大地がどうしているのか、気になっているのだ。