ビタースウィートメモリー
そういえば、風呂上がりに必要な部屋着を貸していない。
部屋着が入っている引き出しを漁り、クリーム色のTシャツとグレーのスウェットを出して、ついでに自分の着替えも出していると、後ろから声がした。
「色気のない下着だな。ブラ付きキャミとか、おばさんかよ」
甘さを含んだ美声に乗る言葉はなかなか辛い。
「うるせえ。楽なん……」
舌打ちしながら振り返った悠莉は絶句した。
腰にタオルを巻いただけの大地が、ガシガシと頭を拭きながら見下ろしている。
うっすらと割れた腹筋に、綺麗に浮き出た鎖骨、紅く色づく胸の先端、どのパーツをとっても大地の体は完璧な美しさだ。
「お前なぁ……部屋着を貸すのを忘れていたあたしも悪いけど、年頃の女性の部屋で堂々と裸を披露するな」
「え?年頃の女性?どこどこ?」
キョロキョロとする大地をしばき倒したくなるのをこらえ、代わりに着替えをその整った顔に叩きつけた。
「わっ、なんだよ。普段俺のことなんざ男扱いしてないくせに」
「黙れ。ドライヤーはテレビの左隣。髪乾かしてさっさと歯磨きして寝ろ」
髪をほどき、手早く服を脱ぎながら、悠莉は落ち着かない気分でいた。
ドア一枚を隔てて、大地がいるのだ。
喉仏が出ているわりに声が低くないのはなぜだろうとか、意外と肩幅があっただとか、色々な想像が止まらない。
いつもより温度を一度だけ上げて、熱いシャワーを浴びながら、悠莉は長いため息をついた。
「あーダメだ……完全に意識している」
どんなにダメなところを間近で見ていても、やはり大地は異性である。
時にはドキッとする瞬間だって、過去には何回かあった。
しかし、そのたびに冷静になるように心がければ、不思議とまた純粋な友情が蘇るのだ。
コンディショナーを流しながら、心を無にするよう心がける。
ボディーソープを泡立てている間も鼓動の速さが変わらないのに、思わず悠莉は舌打ちした。
なんだか、今回は切り替えがうまくいかない。
自宅にあげないことで最後の一線を守っていたのに、それが壊れたからか、大地を意識するのをやめられそうになかった。