ビタースウィートメモリー
目を剥いて吠えるように怒鳴れば、店員が一斉に振り返った。
大地はというと、もう一つ自分用のものを用意していたらしく、ケースを開けている。
「何って、婚約指輪だけど?」
「え、はあ!?」
「だから、婚約指輪」
「そうじゃなくて、婚約ってなんだ!?誰と誰がだ!?」
「だから、俺とお前が」
意味がわからない、と絶句したその時、けたたましくドアベルが鳴った。
「大地くん、どういうこと!?」
キンキンとした金切り声に、大地と悠莉は同時に振り返った。
前髪をぱっつんに切り揃え、巻き髪をポニーテールにした童顔の女性が、ツカツカと歩み寄ってきた。
白いレースをふんだんにあしらった少女趣味なワンピースに、パステルピンクのハンドバッグと、バービー人形のような格好である。
ぷっくりとした涙袋にはハイライトを仕込んでいるのか、暗い店内でそこだけ妙に浮いている。
「みく、この人が俺の婚約者。お前は彼女じゃなかったんだよ。ただのセフレ」
にっこり笑って爆弾発言を落とした大地に、悠莉は筋書きを察した。
婚約者を演じさせるために、わざわざ本物の指輪まで買ってきたのだ。
自分で撒いた種ではあるが、協力を約束した以上、彼女らしい振る舞いをしなければいけない。
「大地、いくらなんでもこれは……わざわざプロポーズの瞬間を見せつけるなんて。みくさん、すみません。こいつデリカシーがなくて。あなたには本当に申し訳ないことをした」
頭を下げ、そして悠莉ははっきりと言った。
「しかし、勝手を承知でお願いいたします。大地と別れてください。彼とはもうすぐ結婚するんです。彼の本命があたしである以上、あなたには引いてもらうしかない」
「嘘っ!!あなた青木さんだよね?大地とは呑みに行くだけで、そんな関係じゃないでしょ!」
予測はしていたが、彼女は大地の周りにいる女性についてもしっかり調べていたようだ。
悠莉は真剣な顔がひきつりそうになるのを堪えた。
「付き合っていない男性と、一夜を共にしたりしませんよね?」
ゆっくりと、思わせ振りにそう言えば、みくは顔を真っ白にした。
「昨日帰ってこなかったのって……」
「この際だから言っておきますけど、盗聴も盗撮も不法侵入も、全部犯罪ですからね。そう、大地は昨日あたしの家に泊まりました」
「大地くんは、みくとの将来を真剣に考えたいって、それでここに呼んだんじゃないの!?」