ビタースウィートメモリー
てっきりプロポーズされると思っていたのか、みくは瞳を潤ませていた。
「そうとでも言わないと、お前来ないだろ。っていうか、本当はわかってたんだろ?俺がお前のこと、そんなに好きじゃないって」
冷たく吐き捨てる大地にも白い目を向けそうになり、再び悠莉の忍耐が試された。
「お前と違って、悠莉は一緒にいて楽しい。飯も旨くて仕事も出来て、ついでに体の相性もよかった。ここまで揃っていたら、結婚したくもなる。お前じゃ無理だったんだ」
修羅場も二回目になると、わりと冷静に見ることが出来る。
堂々と嘘をつく大地に、よくそんなにスラスラと嘘が言えるな、と感心すら出来た。
大地の周りには、後腐れなく別れることが難しい女性しか集まらないのかもしれない。
あるいは、彼がわざわざ性格に難がある女性を選んでいるのか。
「じゃあ大地くんは……なんでみくと一緒にいたの?なんで好きって言ったの?」
「悠莉と付き合う前は誰でも良かったから。別に好きじゃなくてもそう言っておけば、喜んで股を開くだろ?」
あまりの暴言にさすがに大地を叱ろうとしたその時、瞳孔を開いたみくが悠莉に突進してきた。
平手打ちしようとするが、みくと悠莉の身長差は20cmほどあり、手が届かない。
キャットファイトをするつもりはさらさらない悠莉は、みくの両手首を掴んだ。
「離しなさいよこの巨人!なんであんたみたいな女が選ばれてみくが選ばれないの!?」
「そういう、選ばれるとかっていう主体性の無い考え方が男にナメられるんだよ。あんた、大地以外の男にも騙されたことあるんじゃないか?」
図星だったのか、みくは嗚咽を漏らした。
ぼろぼろと涙を溢すみくの瞳をしっかり見つめ、悠莉は手首を掴む力を弱めた。
「みくさん、もう一度言うよ。盗撮や盗聴は犯罪だ。それが露見した時、まともな男は不快に思う。そして気持ちが離れていく。あんたは相手の心を繋ぎ止めたくて必死でそういうことをしたのかもしれないけど、それじゃあダメなんだ」
大地の元カノ達はだいたい強い女だった。
浮気されていたり、大地が本気で付き合っていないことを知ると、自分から離れる女が多かった。
だがごくたまに、こうしたみくのような依存性の高い女性が大地と付き合うことがある。
大地に傷つけられ、ボロボロになる彼女達を見ていると歯痒くて、おせっかいとわかっていてもつい悠莉は首を突っ込んでしまうのだ。