ビタースウィートメモリー
「本当に大地と付き合いたいなら、対等な関係でいられるよう頑張らないといけなかったんだ。だって、あんたが甲斐甲斐しく世話をしてこいつが喜んだことがあったか?」
「あ……」
悲しげに揺れる瞳を癒す術は、悠莉にはない。
しかし、育ちきった悪性の腫瘍は切れる。
「みくさんは、顔はけっこう可愛いし家事だって出来る。大地みたいな腐れ外道にはもったいないんだ。ちゃんとみくさんを大事にしてくれて、みくさんの甲斐甲斐しさに応えてくれる人を彼氏にしたほうがいい」
「じゃあなんで、青木さんは大地くんとお付き合いしているの?それに、浮気相手だったみくのことをそんな風に言うなんて変だよ」
泣きながら、不思議そうに尋ねるみくに、悠莉は考えながら答えた。
「あいつと対等に付き合えるのがあたしくらいだからかな。みくさんは真剣に大地のことが好きだっただけなんだろう?本命の存在を隠していた大地が全面的に悪い」
まあ、本気で好きな相手じゃないからそう言えるだけなのだが。
恋愛感情がないから、嫉妬もしないし浮気も許せるのだ。
大地に負けないくらいに堂々と嘘をつきながら、悠莉はあることに気づいた。
「みくさん、今自分のこと浮気相手って言ったよね。実は、自分でも気づいていたんじゃない?」
無意識のうちに身を引いていたことを悠莉に指摘され、みくは寂しそうに笑った。
「そうかも……どれだけ頑張っても、大地くんはいつもみくに一線を引いてた。それが寂しくて、ある日お昼寝している時にお家の鍵を勝手に借りて、スペアキーを作ったの」
一緒にいる時は甘い言葉を囁いてくれるが、普段は電話もLINEもして来ない。
自分のことは話そうとせず、自宅に私物を置かせてくれない。
諸々の大地の行動に不安感を煽られたみくは、自分の立ち位置を知りたくて、不法侵入と盗撮、盗聴に及んだという。
「わかってるよ……みくのやったことは、すごく気持ち悪いこと。大地くん、二つだけ教えて」
「何?」
「みくのこと、少しは好きだった?」
「全然」
まったく期待を持たせないきつい一言にめげることなく、みくはもう一つ尋ねた。
「青木さんのことは?好き?」
「好き。俺にとって一番大事な人」
「そっか……」
即答であった。
嘘にしてはやけに熱がこもった大地の声に、一瞬悠莉の心臓が揺れた。
「ごめん、みく」
静かに謝る大地に、みくはか細い声でさよならを告げた。