ビタースウィートメモリー
ボストンでは色々な人と仲良くなった大地だが、その中には現役の探偵がいた。
日本から送られてくる小遣いのほとんどを費やし、探偵に調査を依頼してわかったことは、立花七海の浮気であった。
「立花のホストファミリーは、大病院を経営する一家だった。あの女はそこの一人息子と俺のどっちを本命にするか悩んでいたらしい。金があるのはあっちだけど、顔は俺のほうがよかったから」
悠莉は、先ほどの顔以外に取り柄がないという発言を後悔した。
知らないうちに、大地の古傷を抉ったかもしれない。
「そのバカ息子とやる時は生なんだとさ。相手がゴムを嫌がるからって。これは問い詰めた時に本人から聞いた。そんなわけで、俺は立花と別れた」
「そうか……」
「浮気されたこともだけど、性病を移されたことがショックだった」
悠莉は、かける言葉が見つからなかった。
下手な慰めは必要ないだろうし、明るく励ますのも違う気がする。
「それと、浮気に気づかなかった俺のことを、影でバカにしていたと女友達から聞いた。直接自分の目で確かめたわけじゃないけど、もうあの女と関わりたくなかったから、真相は知らない」
「それで女性不信になったのか?」
「多分な。まともな女性だってたくさんいるって頭ではわかってるんだけど、そういう人達にはお似合いの彼氏や旦那さんがいる。俺に寄ってくるのは、この顔につられた頭の軽い女だけなんだよ」
だんだん呂律が回らなくなってきたのか、大地の発音が不明瞭になってきた。
首筋まで真っ赤に染まり、目は眠たげだ。
悠莉ほどではないが大地も酒には強く、普段ならワインを三本飲んでも決して酔っぱらわない。
潰れかけている大地を見るのは初めてで、悠莉はワインを取り上げた。
「残りは責任を持ってあたしが飲んでおくから、お前は水でも飲んでろ」
ウェイターに氷なしのお冷やを頼み、悠莉は真正面に座る大地を見つめた。
アーモンド型のくっきりとした二重の瞳は、憂いを帯びてる。
目を伏せているから睫毛が影を落としていて、それがまた色っぽい。
大地の容姿が女性を強烈に惹き付けるのは間違いなかった。
「小野寺、そんな風に自分の価値は顔だけみたいに言うな。あたしが悲しくなる。お前が不細工だったとしても、あたしは絶対友達になっていた」