ビタースウィートメモリー
バナナとコーヒーで軽めの朝食を済ませると、早速調理に取りかかる。
月曜日に買ってから手つかずだったキャベツを、コールスローとマカロニサラダにして、芯に近い部分は野菜スープに入れるために薄くスライスする。
ミートローフをオーブンに入れて一息つくと、明日の朝食用にバナナマフィンの生地も作った。
トースターでマフィンを焼き、手持ちぶさたになった悠莉は今日何度目かわからないLINEのチェックをした。
やはり、大地からの連絡は来ていない。
昨日までだったら、気になったことがあればさっさと連絡していた。
用事がなかったとしても、映画や呑みに誘ったり、お笑い番組の感想を言ったり、くだらないことでLINEしていた。
簡単だったことがいきなり難しくなって、悠莉はため息をつくしかなかった。
マフィンもミートローフも、焼き上がるまでまだまだ時間がある。
洗面所と風呂をピカピカに磨きあげて、トイレと玄関の掃除もして、他にやることがないか探しているうちに、トースターがチンと鳴った。
マフィンを皿に移して冷ましている間に野菜スープを作り、常備菜から今夜の食事の準備まで終えた悠莉は、さらにやることがないか探した。
「あ、洗濯」
シーツと枕カバーを洗おうと洗濯機に運んでいる時に、一昨日大地が泊まったこと、そしてその時の荷物を思い出す。
確か、出社する前にコインロッカーに預けていたはずだ。
昨夜、大地はリュックを持っていなかった。
回収を忘れたのかもしれない。
リュックを忘れていないか、大地にLINEしようかしばらく迷った結果、悠莉は家を飛び出した。
電車で12分揺られ、会社の最寄り駅に降り立つ。
衝動的にここまで来てしまったが、よく考えたら大地が何番のコインロッカーを使っているのか知らないのだから、確かめようがない。
後先考えずにここまで来た自分のバカさ加減に呆れ、やっぱり帰ろうとしたその時、遠くの人混みに大地の姿を見つけた。
弾かれたように慌てて女子トイレに駆け込む。
こんなところまで来るほど大地のことを気にしているなんて、本人に知られたくない。
何秒かしてからそっと女子トイレから顔を出すと、大地は黒いリュックを背負って、来た道を戻っていた。
無事に回収したことを見届けてホッとするが、同時に嫌悪感も沸き上がる。
「ストーカーかよ、あたし」
昨日みくに偉そうに説教しておいて、なんて様だろう。