ビタースウィートメモリー
カマンベールチーズと生ハムを手土産に美咲がやってきたのは、17時ぴったりだった。
購入したばかりのビールサーバーを見て悠莉の金遣いの荒さに小言を言うが、ちゃっかりと二杯もおかわりしている。
「ミートローフ美味しい~!作り方教えて!」
むぐむぐと噛む姿が小動物みたいで可愛いため、調子に乗った悠莉はつい明日の分まで出してしまった。
「後でLINEに送る。で、今回はどんな良いことがあったんだ?」
「えへへ、実はね、昨日高橋さんとご飯行ったんだけど……」
恥ずかしそうにはにかみ、美咲はうっとりと目を輝かせた。
「すっごく美味しい肉バル連れてってもらったの!私実は高橋さんってなんか苦手だったんだよね。見た目が怖くて……」
「ああ、確かに迫力ある顔だもんな」
「でも、ホームパーティーの時に話してみたらすごく楽しくて、昨日たまたま帰る時に会ってそれで一緒にご飯行ったの」
本当にたまたまだろうか。
高橋が美咲を狙っていたことを知る悠莉としては、その言葉は本当か疑ってしまう。
「ご飯の帰りに、日曜日デートしませんか?って誘われちゃった」
嬉しそうな声のトーンに、あ、これはもうとっくに落ちている、と確信する。
高橋は美咲の心を掴むことに成功したようだ。
「小野寺はいいのかよ」
つい最近まで他の男にキャーキャー言っていたのに切り替えが早いな、と悠莉は苦笑した。
「いいの。小野寺くんはアイドルだから別枠。芸能人と付き合いたいなって妄想はしても、本気で狙ったりしないでしょ?」
「なるほど」
しかし気になるのは……。
「美咲、もうとっくに高橋さんのこと好きみたいだけど、決め手はなんだったの?」
そこが最大の疑問である。
「私のことが大好きすぎて、必死なところ?」
「ごめん、よくわからない」
「今まで何人か彼氏はいたし、それなりにデートもしてきたけど、こんなに真っ直ぐ好きって気持ちを向けられたことなかったんだ。高橋さんが私のこと好きなのは前から知ってたよ?向こうもバレてるのはわかってると思う」
話しかける時には常に美咲が楽しめる話題を、ご飯に誘う時は美咲の行きたがりそうな店を。
一緒にいる時はすべて美咲を中心に考えるそのマメさが、心を掴んだらしい。