ビタースウィートメモリー
「白石さんのこと考えている時が一番幸せ、なんて面と向かって言われたらね、この人可愛いなぁって思っちゃうよ」
「うええっ、甘ったる」
糖分過多で吐きそうだ。
次に会った時にネタにしてからかってやろうと、悠莉は笑った。
「ちょっとひどーい!女の子ならこれくらい甘いセリフ欲しがるわよ!悠莉はおじさんだからわからないかもしれないけど!」
「おじさんねえ……つい昨日までは自分でもそう思ってたよ……」
いきなり無表情になった悠莉を見て、美咲は眉尻を下げた。
「なにかあったの?」
「昨日小野寺にキスされた」
「ぶふっ」
どこから言うか考えている間にポロっと出た一言で、美咲はビールを吹き出した。
「え、ええ!?」
「美咲、テーブルを汚すな」
「ナニソレ!」
「日本語がカタコトになるくらい衝撃だったか」
「衝撃だよ!」
テーブルに点々と散ったビールを拭き取り、美咲は改めて悠莉を見た。
外見の変化が無いどころか、目には精気がなく、口元は死んだ魚のように半開き。
「……悠莉は別に小野寺くんのこと好きじゃないんだよね?」
「なぜ否定形から入る」
「恋する人の顔じゃないから。今の悠莉の顔はただの死にかけの魚だもん」
「魚でけっこう。別に恋したいなんて思ってない。なのに、意識しちまうんだよ。青木が彼女なら良いのにとか言うしさ。なんなんだよあいつ」
「ちょっと待って、その発言とキスって脈ありじゃなかったら逆になんなの?」
鋭くつっこみを入れる美咲に、悠莉はやっぱりそう見えるよな、と呟いた。
「でもあいつ誰とも本気で付き合えないから、全部なんの意味も無かったって可能性もある」
「そうかな?気づいてないかもしれないけど、小野寺くん悠莉と話している時が一番自然に笑ってるよ。だいたいの女性には耳障りの良いことしか言わないけど、悠莉には厳しい言葉も優しい言葉もかけるし」
「もう十年近く友達やってるんだ、そりゃ遠慮のない関係になるだろ」
「ねえ悠莉、怖いの?」
問いかける美咲の目は真剣だった。
「小野寺くんと友達でいられなくなるのが、怖い?」
色々な感情が溢れ、言いたいことがありすぎて、悠莉は一瞬言葉に詰まった。
「当たり前だ!だってあいつはずっと友達だったんだ、それなのにいきなりこんな……」
「質問を変えるね。悠莉は小野寺くんのことどう思ってるの?」
「え」
「異性として意識しばじめただけ?それとも、もう好き?」
美咲の質問に即答出来ず、悠莉は項垂れた。