ビタースウィートメモリー
「いやほんと、何やってるんだ俺は」
ベッドの上で、今日何回ついたかわからないがまたため息が出る。
会社のグループLINEを見た時に、チャンスだと思った。
悠莉に連絡する口実が出来たと小さくガッツポーズをした大地だが、いざ電話をかけてみると、妙に緊張して喉が渇きっぱなしだった。
いきなりキスしたことになんて言い訳をしようか考えているうちに、どうでもいい話しばかりしてしまい、気づいたらバッティングセンターに誘っていた。
悠莉の方からは何も言ってこなかったが、やらかしたのが自分である以上、弁解でも言い訳でも、とにかく自分から話さないとダメだと大地は頭ではわかっていた。
しかし、なんて話を切り出せばいいかわからず、結局は当たり障りのない雑談だけで終わってしまった。
友達と認識し、周囲もそう認めていた人と気まずい空気になったことは、大地の27年間の人生の中では一度もなかった。
よって、当然この空気を払拭する方法を大地は知らない。
そんな彼を嘲笑うかのように、カルティエのシルバーリングがテーブルの上で淡く光る。
みくと別れるためにノリと勢いだけで買ったちょっと安めのその婚約指輪をどうするかも、大地はまったく考えていなかった。
安物だが、装飾が一切ないシンプルなそれが悠莉に似合っていたことを思い出す。
少しだけ、捨てるのはもったいないと思ってしまった自分がいて、ますます頭が混乱した。
「もったいないってなんだよ。意味がわからない」
苛立ちにまかせて頭をグシャグシャにかきむしり、深く息をつく。
明日悠莉と会った時に平常心でいられる自信が、大地にはまったくなかった。