ビタースウィートメモリー
それから約二時間、休憩を入れずに打ち続け、満足した悠莉と大地はバッティングセンターを出た。
加減をしたとはいえ、バットがボールを捕らえる感触は久しぶりだった。
次に真ん中周辺の打席に入れたら間違いなく綺麗に打てる。
「あっちい……青木、一杯どう?」
外はだいぶ涼しくなっていたが、運動した直後であるため、大地の額にはうっすら汗が浮かんでいた。
小さめのハンドタオルで首回りの汗をぬぐい、悠莉は躊躇うことなく行くと返事した。
しばらくは大地の奢りなのだ、行けるときに行っておかないと勿体ない。
「ビールの気分だな」
並んで歩いている時にぼんやりしながら悠莉がぼやくと、大地も気だるげに頷く。
「運動した後はビールだな。つまみは枝豆と、今日は暑いから冷奴」
「それでメインは鶏のからあげか焼き鳥」
「〆は?」
「当然ラーメンだろ」
「……俺たちの思考がシンクロし過ぎていて怖い」
今日だけではない。
一緒に食事や飲みに行く時、悠莉が食べたい物や飲みたいものはだいたい大地と被る。
好きな味付け、食べる順番までそっくりそのまま同じという驚異のシンクロ率は、まるで双子のようだ。
「前世は家族だったのかもな。小野寺と飯食う時はなんにも気を遣わなくていいから楽でいいわ」
「俺も。なんだかんだ言って、お前と飯食うのが一番だよ」
歌舞伎町から歩いて新宿駅前まで移動し、二人は駅前のビアホールに入った。
ビールはヱビスビールかサッポロ黒ラベルしか飲まない悠莉と大地は、会社の飲み会でもなければチェーン店系の居酒屋には行かない。
メニューに冷奴がないことに二人ともがっかりしたが、大地は代わりにポテトサラダを頼んだ。
最初のオーダーから5分も経たないうちにやってきたビールで乾杯し、悠莉は金色に輝くアルコールを流し込んだ。
暑さで干上がった喉が潤った時には、ジョッキの中身が半分に減っていた。
「あー……うめぇ……」
ふーっ、と長く息を吐く姿は中年のサラリーマンそのものである。
「その口調と仕草、完全におじさんだな」
「なんだ、今さら」
「そんなんだから彼氏いないんだよ」
「それも今さら」
「いないっていうか、作る気ないだろ」
「うん」
「なんで?」
すぐには答えず、悠莉はゆっくりと枝豆を咀嚼した。