ビタースウィートメモリー
大地に、なぜ彼氏を作らないのか聞かれたことは何度かある。
そのたびにのらりくらりと交わし、悠莉は決して答えなかった。
答えられないほど辛い過去があるわけではない。
ただ単に、面倒くさかったのだ。
だがそれも潮時だろう。
大地が苦い過去を打ち明けてくれた以上、悠莉は真剣に答えることにした。
「最初に彼氏が出来たのは高校1年の秋くらいだったかな……交換留学生に選ばれていた、うちのクラスの堺って覚えてる?」
「サッカー部の、あのムキムキ六頭身?」
「あははは!そうそう」
ぴったりすぎる表現に、つい悠莉は笑った。
ムキムキ六頭身の言葉通り、かつて悠莉の彼氏だった堺篤紀は、身長165cmで全身が筋肉に覆われていた男だった。
お調子者だが底抜けに明るくクラスのムードメーカーだった彼が、悠莉に思いを寄せるようになったのは、高校に入ってすぐのことだった。
いつも一緒にいた友人達と女子トイレや放課後の教室でしゃべっている時には、決まってそのことでからかわれた。
『悠莉、初カレゲットおめでとー』
『告白もされてないのに何が初カレだ』
『そんなの時間の問題っしょ』
囃し立てる友人達の言葉通り、夏休みが終わってすぐに、悠莉は堺篤紀に告白された。
二人きりで教室に残っている時に何の脈絡もなく告白されたため、勢いで悠莉は断ったが、堺のことが気になっていると気づいたのは振ってからである。
年頃の娘らしく、悠莉も人並みには恋愛というものに興味があった。
クラスの女子のほとんどは初恋を経験していて、半分近くは現在彼氏がいるか、今までに彼氏がいたことがある。
話を聞くだけではなく自分も体験してみたい。
恋愛に、彼氏に、淡い憧れを抱いていた悠莉が、自分に好意を見せてくる佐々木が気になってしまうのはごく自然な流れだった。
「どストレートに好きだなんて言われちゃって、恋愛してみたかった当時のあたしは完全に舞い上がってた」
つまらなそうにビールジョッキを傾ける悠莉に、大地は首をかしげた。
「そんなにつまんない男だったのか?堺っていつも明るくてバカやってたから、彼女がいたら全力で笑わせて楽しませるやつだろうなって思ってたんだけど」
「友達に見せる顔と彼女に見せる顔って、違ったりするだろ?まあ、続きを聞け」