ビタースウィートメモリー
その甘い誘惑に、悠莉は渋い顔で葛藤した。
あと一押しと見た大地が、さらに畳み掛ける。
「それだけじゃない。呑みに行くときは全額俺が出す。ただ呑み期間約一週間だ」
「……仕方ないな」
こうして、悠莉は物欲に負け、大地の彼女のふりをすることとなった。
目標を達成した大地は満面の笑みである。
「助かる!本当にありがとう!じゃ、早速だけど一件目行こうか!」
「呑みに?」
「いや、別れ話ししに」
さすがにそれは予想外で、開いた口が塞がらない。
大地は手際良くテーブルを片付け、店員を呼び、さっさと会計も済ませた。
そして二人が向かったのは、恵比寿駅から徒歩5分のところにある小洒落たバーである。
「今日21時にここで待ち合わせている。とりあえず、俺に話を合わせておいてくれれば良いから」
「おう……ところで、なんであたしなの?他の女性と違ってトラブルにならなそうだから?」
しばらく考え込んだ様子の大地を観察しながら、悠莉は返事を待った。
185cmの大地の隣に立っていても、その差は5、6cmしかない。
悠莉は身長が173cmと女性にしては高いため、ヒールのある靴を履くと、だいたいの男性より背が高くなる。
今日は外回りがないため、7cmのパンプスを履いていた。
おもむろに振り向いた大地と、ほぼ平行に目線がぶつかった。
「誰よりも信頼しているから、かな」
不覚にもドキッとしてしまい、慌てて目を逸らす。
「付き合い長いし、お前って俺に何も期待していないから。だからつい楽で、甘えてるんだと思う。今回だって、酒で釣ったからだけど、助けてくれるし」
「ったりめーだろ。面倒くさいけど、友達なんだし」
一言一言を噛み締めるように話す大地への照れ隠しのために、悠莉はあえて男らしい返事をした。
どうしようもない女たらしの外道だが、やはり友達なのだ。
心のこもった言葉は恥ずかしいが、正直嬉しくて、悠莉は全身が熱くなるのを感じた。