ビタースウィートメモリー
「そんなわけで、初体験は最悪だった」
無理矢理肉をこじ開けられる苦しさと鈍痛、そこから来る恐怖で、悠莉は終始叫び通した。
全身から脂汗が吹き出て、なんでもいいからさっさと腰振って出せとか、よくよく考えたらものすごく色気のないことを叫んでいた気がする。
そんな悠莉に興奮出来るほど、堺は胆の据わった男ではなかった。
一気に萎え、ただ悠莉を貫通させただけで、堺の下半身は引っ込んだ。
それ以来、二人は会うことはおろか、連絡もどんどん減っていった。
付き合いはじめの頃の情熱は消え失せ、いつ別れるか、どのタイミングで話すか、一人の時はそればかり考えていた。
愛情もないのにだらだらと付き合い続けるのは苦痛だし、何より相手に失礼である。
初体験から二週間後、別れる決意を固めた悠莉は、学校の近くのカフェに堺を呼び出した。
悠莉にとっては馴染みのあるアメリカだが、堺は日本から出ることがまず初めてだった。
慣れない環境に順応しなければいけない中で、これから彼女に振られるのである。
少しでも学校から離れたところで話を終わらせようと思ったのは、かつて好きだった人への悠莉なりの配慮だった。
約束より少し遅れてやってきた堺は、急いできたのか、息を切らしていた。
『ごめん、ちょっと遅れた!』
『あたしも今着いたばっかだから大丈夫だよ』
『腹減ったな~。悠莉はもう飯食った?』
学食で済ませてきたが、今から別れ話を切り出す罪悪感から、悠莉は動揺してまだと答えてしまった。
なんの意味もない嘘をつくくらい緊張していることに、悠莉は自覚がなかった。
『よかった、じゃあ一緒になんか食おう』
『そだね……あたし軽いものでいいから、スモークサーモンのベーグルにしとくよ』
『じゃあ俺はBLTサンドにする』
ウェイターを呼び止めて佐々木は注文をした。
しかし聞き取れなかったのか、ウェイターは困った顔をしている。
堺の英語の発音は、日本人が聞いてもはっきり下手だとわかるほど不明瞭だ。
それを指摘したら機嫌を悪くするから普段は何も言わない悠莉だが、どうせランチを食べたら別れる相手である。
遠慮なく、注文は自分がした。