ビタースウィートメモリー


『Sorry,He is weak in English.Can I order now?(ごめんね、彼英語が不得意なの。注文してもいい?)』

『Oh,I get you.Of course(ああ、なるほどね。もちろんいいよ)』

『I'll have a smoke salmon bagel please.And He'll have a BLT sandwich(私はスモークサーモンのベーグル、彼はBLTサンドを)』

『Let me confirm you order. Smoke salmon bagel and BLT sandwich.Please just a moment(ご注文を確認します。スモークサーモンのベーグルとBLTサンド。少々お待ちください)』


爽やかな営業スマイルを決めた店員に、悠莉も笑顔を返した。

追加で炭酸水を頼み堺の分も注いでいると、彼が目に見えて気を悪くしていることに気づく。


『なんだよあの店員……悠莉も、わざわざ英語が不得意とか言わなくていいだろ』

『いや、事実だろ』


温度を感じさせない悠莉の声に、堺はぽかんと口を開けた。

店内が空いていたため、注文した軽食はすぐに運ばれてきた。

話しかけたいけれど話しかけにくいとでも言うように、堺はチラチラと悠莉を見ていたが、悠莉はそれをスルーした。

スムーズに別れ話を進めるためには、相手に自分の意図をわからせる必要がある。

堺は人の機微には鈍いため、何事も分かりやすい態度をとるのが一番だ。

連絡をする頻度が落ちても、デートを断るようになっても、一切悠莉の変化に気づかなかった男ではあるが、さすがに今日はおかしいと気がついたらしい。

居心地が悪そうに身を縮こまらせ、さっさと軽食を食べるとトイレに引っ込んだ。

昨夜ピルを飲むのを忘れていた悠莉は、バッグのポケットからピルが入ったミニケースを出した。

堺が戻ってくる前に飲んで仕舞おうとした時、男子トイレのドアが開いて彼は戻ってきた。

予想以上に早く戻ってきたことに驚き、咄嗟に悠莉はバッグにピルケースを仕舞ったが、少し遅かったようだ。

堺はテーブルの上と悠莉のバッグを交互に見ていた。


『今、なんか慌てて隠したよな?黄色のケースみたいなの』

『頭痛薬だよ』

『頭痛薬なら隠す必要ないだろ!』


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