ビタースウィートメモリー


目を合わせようとせず、しらを切ろうとする悠莉に苛立つ堺。

二人の間に緊張が走ったその時、なにやら揉めていると思ったのか、隣で注文をとっていた先ほどのウェイターが口を挟んだ。


『That's a pillcase,young man.Not a drugs.Please quiet in the shop(あれはピルケースですよ、お客さん。ドラッグじゃないんだ。店内ではお静かに)』


助け船を出したつもりのウェイターの一声に、思わず悠莉は舌打ちした。

日本語で話していたのに絶妙に会話に入ってきた上、悠莉が隠したものも当ててきたのだ。

さて、いよいよ面倒なことになった。

呆然としていた堺も、ウェイターの言葉の意味を理解し始めると怒りが湧いてきたらしく、目付きが悪くなった。


『ピルって本当かよ』


綺麗に別れるのは無理そうだ。

そう判断し、悠莉は気を遣わずに答えた。


『本当だったとして、あんたになんの関係がある?』

『なっ……!一応俺、お前の彼氏だぞ!』

『ピルを飲んでいることは誰にも言っていなかった。別に堺を信用していないってわけじゃないけど……』


どういう反応をするのか見極めようと言葉を切った悠莉に、堺はとんでもないことを言った。


『なんだよそれ、生でヤれたじゃん!』


堺が言ったことの意味がわからず、頭が追いついた時に悠莉を襲ったのは様々な感情だった。

失望、怒り、呆れなどが混ざり、ふさわしい言葉が見つからなくて、悠莉は咄嗟に何も言えなかった。


『必死でゴムつける練習したのがバカらしい……』

『そう言われたら嫌だから言わなかったんだ。だいたい生でヤれたってなんだ!あたしは風俗嬢じゃない!』

『ピル飲んでるってそういうことだろ!?じゃなかったらなんで飲んでるんだよ!』


行き過ぎた無知とデリカシーのない言葉に、とうとう悠莉の怒りが爆発した。

水が並々と入ったグラスを掴み、勢い良く堺の顔にぶちまける。


『生理痛緩和のためだよ!!ピルを飲む女性のすべてを避妊目的だと思うな!間違ってもお前なんかのために飲むか!』

『お前なんかってなんだ!さっきから彼女とは思えない言い草だな』

『は?彼女?誰が?お前はあたしを彼女だなんて思ってないだろ』


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