ビタースウィートメモリー
『思ってるよ!じゃなきゃ』
『へえ、そうか。じゃ、なんで生でヤれたなんて言えた?なんでいつもセックスすることしか頭に無いんだ?』
堺の言葉を遮り、悠莉はせせら笑った。
『生発言はきっかけじゃなくて、起爆剤だ。堺、今日をもってさよならだ。あたしはお前のダッチワイフになるつもりはないし、こんなくだらない付き合いで時間をムダにするつもりもない』
この時点で、もう悠莉の中には堺への好意はゼロになっていた。
傷つけないような別れ方をしようという思いやりもなくなり、言葉がきつくなるのが止められなかった。
『くだらない?俺と付き合った時間を全否定かよ!』
『否定したくなるようなことをしたのはお前だ。あたしの方から問題を作った覚えはない』
『あるだろたくさん!お前はいつもどこか冷めてた!さっきだって上手く英語が話せない俺のことをバカにしていた!』
冷めていたと言われれば、きっとそうなのなもしれない。
自分から好きになったわけではなかったから、特にアプローチをしたり、堺の関心を得ようと努力したこともなかった。
しかし、気持ちが淡くはあったが確かに好きだった。
『あたしが好きになった堺は、そんな風に卑屈な女々しい男じゃなかった。陽気で誰に対しても平等に接して、誰よりも男らしかった。別れよう。あたしの連絡先は消して。あたしも消しとくから』
必要なことを事務的な態度で淡々と告げると、悠莉はチップも含めて10ドルをレジ前に置いた。
いきなり始まった外国人の修羅場に店内は静まり返る。
堺がすすり泣く声が聞こえたが、振り返ることなく悠莉はカフェを出た。
泣きたいのも傷ついたのもお互い様である。
絶対に一人になるまでは泣かないと決めて、悠莉は何事もなかったかのようにホームステイ先に帰った。