ビタースウィートメモリー
「とまあ、こんな感じであたしの初恋は終わった。それ以来彼氏はなし」
枝豆を齧り、ビールをグビグビと飲み干して、悠莉はあっけらかんと言った。
久しぶりに元カレを思い出し、少しテンションが下がるのを自覚する。
「青木もなかなか悲惨だな」
「だろ?それ以来、恋愛する気にまったくなれなくてな……」
ビールも5杯を越えると、いつもより口数が増えてくる。
「恋愛だけじゃなくて、性的なことが無理。興味がわかない。びっくりするほど性欲がない。異常なことだとは思ってるけど、カウンセリングや病院に行こうとも思えないんだ。だって、セックスに興味を持つ努力をしたくない」
いつもの生き生きとした表情ではなく、苦虫を噛み潰したような顔で、悠莉は吐露した。
恋愛が出来ない最大の理由は、あまりに解決が困難だった。
「そっか……俺も恋愛する気はないけど、性欲だけはあり余ってるから困ってる」
「だったら彼女じゃなくてセフレを作れ」
「何度も試みた。でもだいたいの女がセフレからの脱却を目指すから長続きしない」
ため息混じりの大地の言葉は、文字に起こすとただのモテる男自慢だが、それが自慢ではなく事実であると悠莉は知っていた。
「あーあ、やっぱり風俗行くしかないのか」
風俗嬢より素人を好む大地は、あまり風俗に行かない。
適当にその辺を歩いている女性をナンパして一発させてもらったら即座に関係を切る。
もし彼女がいたら、彼女にその有り余る性欲をぶつけている。
悠莉は長年の付き合いからか、なぜか大地の下半身事情に詳しかった。
ビールに飽きたのか、大地はデュワーズ12年を頼んでいた。
氷割りのそれを二杯連続で飲み、少しずつうなじから頬を赤く染めていく。
「んー、良い感じに回ってきた」
心地よさげに目を閉じる大地の睫毛の長さを、悠莉はまじまじと見つめた。
一本一本が濃く長く、影が落ちているのがクマにも見える。
「おい、なんか今日は酔いが回るの早くないか?」
いつもの大地なら、さらにウィスキーのストレートを4、5杯飲んで、ようやく出来上がる。
「うーん、そうかも。今日はもう解散でいいか?」
「いいよ。なんなら家まで送ろうか?」
悠莉の申し出に甘えた大地は、会計を済ませたあと、フラフラした足取りでビアホールを出た。