ビタースウィートメモリー
それからどうやって自宅に帰ったのか、悠莉は覚えていなかった。
バッグを掴み、大地の家を飛び出したところまでは記憶にあるが、自宅までの記憶はおぼろげである。
告白紛いの言葉に動揺してその時は何も言えず、明日の出社を考えると悠莉は泣きそうだった。
どんな顔で、大地に会えば良いのかわからない。
友情の終わりを予感して、それが悲しく切なくて、悠莉はベッドの上で膝を抱えた。
右の耳と頬、左の腰、唇と、大地が触れた箇所を思い出しては、また鼓動が早くなる。
大地の官能的な触れ方は、悠莉の内に眠る〝性〟を引き出した。
キスの時にゾクリとしたあの感覚、無意識のうちに飛び出た甘ったるい声、きっとあれが〝感じる〟ということなのだろう。
もしあのままキスが続いていたら……。
ただ処女を失っただけで、その先は知らない悠莉には未知の世界である。
想像もつかず、興味がなかったはずの性的なものが、そんなに嫌なものではないと悠莉は気づいてしまった。
そして、それは相手が大地であったからということも、わかってしまった。
「あたしが彼女だったら……」
今と、何が変わるのか。
周りの目は当然のこと、二人の間に流れる空気も変わるだろう。
もし付き合ったら、仕事終わりに一緒に呑みに行って、休日は野球観戦、サッカー観戦に出かけ、夏は花火大会やお祭りに、冬はスキーに行って……。
「あれ?それって今と何も変わらなくね?」
大地の彼女になったところで、ライフスタイルにそんなに変化が生まれるとは思えない。
遊んでいた時間をデートと呼ぶようになっても、内容が劇的に変わるとは考えにくい。
つまるところ、二人の関係が友人から恋人になったところで、変わるものはほぼないのだ。
唯一の変化は、キスとその先の行為だろう。
目を閉じて想像する。
大地はこれから先の人生、ずっとキス出来る男か。
体を任せられる男か。
答えは……すんなりと出た。