ビタースウィートメモリー
「課長、大変申し訳ございません!!」
悠莉は村田の前で勢い良く、きっちり斜め45度のお辞儀をした。
いきなりの謝罪にたじろぐ村田に、畳み掛けるように言葉を連ねる。
「この議事録、私がチェックした上で課長にお渡しするはずでした。しかし私が忘れているうちに提出期限が来てしまい、金田はやむなく修正前のものを出してしまったようです。金田、そうだろ?」
余計なことは言わずに話を会わせろ、と目で訴えれば、金田は壊れたおもちゃのようにブンブンと首を上下に振った。
「私は先輩ですから、金田は催促しにくかったでしょう。チェックを忘れていた私のミスです。お叱りを受けるべきは金田ではなく私です。大変申し訳ございませんでした」
もう一度深々とお辞儀をすれば、呆然としていた村田は決まりが悪そうに頭を掻いた。
「青木、頭を上げろ。なんだ、そういうことだったのか。金田、俺が怒る前にどうしてそれを言わなかった?」
怒りは抜けているが愚痴っぽくそう言った村田に、悠莉はアルカイックスマイルで対応した。
「どんな事情であれ、提出期限に間に合わなかったことは事実ですから。そこで私の名前を出したりしたら、課長は金田が言い訳しているように聞こえたことでしょう」
あり得ると思ったらしく、村田はそうだな、と呟いた。
「私の名前を出さずに、潔く課長の叱責を受けようと腹を括ったのです。その男らしさに免じて、どうかお許しいただけませんか?議事録でしたら、今日中に修正版をPDFで送らせますので」
「し、仕方ないな。青木、次からは気をつけるんだぞ。金田も、先輩だからと遠慮せずにきちんと言うべきことは言え」
もともと悠莉に甘い村田である。
自分の評価は落ちないとわかっていたので、あまり気負ってはいなかった。
金田の名誉も守れたし、まあまあの対応だっただろうと、悠莉は内心自画自賛した。
「金田、来い。議事録の修正版作ろう」
管理部まで鍵を取りに行き、最上階の一番小さな会議室に入り、鍵をかけてから、悠莉は長く息を吐いた。
「お前な、わからないことがあるならちゃんと誰かに相談しろよ。一人で解決しようとするの、悪い癖だぞ」