ビタースウィートメモリー
諭すような悠莉の声に、金田は涙目だった。
村田に怒鳴られたのが相当堪えたのか、返事をする声はか細い。
「すみません……青木さん……ご迷惑おかけしてしまって……」
「そう思うんなら、報連相を徹底しろ。ここの数字とか会議で出たものと全然違うじゃないか。わからないこと、聞き逃したことがあるならちゃんと誰かに聞け。いいな?」
「はい」
今にも消え入りそうなくらい小さな声だったが、しっかりと返事は聞こえた。
話すべきことは話したし、これからはもっと後輩が相談しやすい空気を作ろうと密かに決意し、悠莉は午前中いっぱいを会議の議事録作成に使った。
細かい数字や代替案、全体のまとめなどは自分でも記録をつけていたため、それを金田のパソコンのメールに送る。
「……凄い、青木さんの資料見やすいです!」
「だろ?金田の議事録は妙に隙間が多いんだよな。とりあえずこのフォントやめろ。グラフはもっと小さくていい」
基本は金田のやり方に任せるが、変だと思った時には口を出し、時にアドバイスを交えて修正し、集中してノートパソコンを見続けること三時間。
昼休み前に、議事録の修正は終わった。
あまりに早い仕上がりに、金田は信じられないといった顔である。
「よし、ちゃんとチェックした。あとはこれをPDFにして課長に送るだけだ。多分今夜中に返事が来るけど、これなら大丈夫だろう」
お疲れさん、と金田の肩を叩き、悠莉は営業一課のフロアに戻った。
タブレットをデスクに置いて、財布だけ持って名札を外出中のところに掛ける。
今日は待ちに待った佐々木とのランチだ。
足取りも軽く待ち合わせ場所に向かうと、佐々木はもう到着していた。
「佐々木さん!」
軽く手を上げて呼び掛けると、彼女はすぐに悠莉に気づいた。
「青木さん、久しぶり!ランチなんだけど、カレーと中華どっちが良い?」
「中華が良いです」
「わかった。隣のビルに美味しいお店が入ってるのよ」
共通の知り合いの話しで盛り上がりながら、悠莉は佐々木オススメの中華料理店に入った。
赤と金の派手な内装が目に鮮やかで、独特なスパイスの香りが鼻孔をくすぐる。
昼時だが混んでいなかったため、二人は窓際の見晴らしの良い席に案内された。
「ここ、本当になんでも美味しいのよ」
「そう聞くとどれにするか迷いますね」