ビタースウィートメモリー
「だいたいの動物は人間より寿命が短いし、先に老いていくのは仕方ないって、頭ではわかっているんですけどね。でも、気持ちとしては受け入れがたいです」
だから、わかります。
そう言った悠莉に、吉田は力なく笑った。
「共感してくれる人がいるだけでも心強いものですね。広報課は動物を飼っている人、今まで動物を飼ったことがある人が少ないから、少し心細かったんです」
「やっぱりこういうのは、同じように飼育経験のある人に話したくなりますよね」
「そうなんです」
話しているうちに楽になったのか、吉田の食べるスピードが上がっていく。
「早めに仕事を片付けて帰れるよう、昼から頑張ります」
「猫ちゃん、どんな子なんですか?」
「あ、写真見ます?」
吉田は嬉々としてスマホの画面を見せてきた。
そこに映っているのは、ソファーの上で寛いでいるオフホワイトの猫だった。
アクアマリンのような水色の瞳が毛並みに映えた、美しい猫である。
「シャムが混ざっているんですよ。もともと猫に興味はなかったのですが、人懐っこくて甘えん坊な性格と、手触りの良い体毛に落ちました」
「おお、毛が艶々……。確かに触ったら気持ちよさそう」
「一度触ると病みつきになりますよ。こんなツンツンした顔して、寝る時は必ず俺の側にいるんです。だいたい二の腕か胸の上に乗ってくる」
「控えめに言って最高ですね」
青木家のマリーがそれをやったら、下の人間が圧死すること間違いなしだ。
子犬だった頃ならともかく、今はもう一緒に寝るのは厳しい。
ほんの少しだけ、悠莉は吉田が羨ましくなった。
「彼女が出来ても外泊が出来ないとか色々制限はありますが、やっぱり家に帰った時に誰かが待ってると安らぐんです」
「彼女より猫優先ですか?」
「もちろんです。以前にも宣言した通り、俺は青木さんは好みドストライクでこれからガンガンアプローチしますけど、どんな時でもこいつ優先です。家族なんですから」
ためらうことなくそう言い切る吉田は、甘く優しい笑顔を浮かべていた。
恋愛を主軸に置かないその姿勢に、吉田への好感度が急上昇する。
二人で中華料理店を出る時には、吉田に対する苦手意識はほとんどなくなっていた。